中世ヨーロッパ社会の解説シリーズ、今回の記事では「農奴解放」についてわかりやすく解説します。
農奴解放とは
農奴とは
中世ヨーロッパは封建社会で、諸侯は領主として荘園を管理していました。その荘園には農民が居住していて、自由民と農奴の立場の人々で構成されていました。
農奴には、様々な制約が義務がありました。例えば、領主や聖職者への納税、労役、荘園内の道具を使用するための使用税の支払いなどです。
農奴解放とは
12世紀以降、中世ヨーロッパでは貨幣経済が浸透すると、農奴が自由な身分に解放されるという「農奴解放」の動きが見られるようになります。
農奴解放権とは
農奴解放権(les chartes de franchises)とは、農奴が自由な身分となるために与えられた特許状のことです。
この特許状を得ることで、農奴は自由な身分に解放されて制約の少ない生活を送ることができるようになりました。
農奴解放への流れ
貨幣経済が農村に与えた影響
領主への納税は、収穫できた農産物から一部を現物で納めていましたが、貨幣経済がだんだん広まっていったことから、領主たちは現金での納税へと方法を変えていきました。
農民たちは、貨幣経済が広まり現金での納税へ仕組みが変わると、農産物を販売し現金を得ることになりました。
農奴から解放されるには
貨幣経済が浸透すると、現金はそのまま保管しておけるので、農民たちは現金を貯めることができるようになります。
農民の中には現金を貯められる者が増え、領主にお金を払うことで農奴解放権を得て、農奴の身分から解放される農民が現れました。
農奴解放権の特許を受けるには
農奴は、貯金した資産からお金を払うことで農奴から解放されましたが、それ以外に方法はなかったのでしょうか。
この時代には、ある土地に移住したり、その土地に留まった場合にも、農奴解放権(les chartes de franchises)の特許を与えられることがありました。これは、時代の流れとともに主に2つのパターンが存在しました。
12世紀~:新しい土地に移り住む人への特許
12世紀以降は、主に新しい土地の開発地に移り住んでくれる農民に対して、農奴解放権の特許が与えられました。新しい土地への移住というのは、これから土を耕したり、住居を造ったり、生活環境を整えていかないといけないため、生活がより厳しく、不安定になる要素があります。そんな土地に移住してもらうために、領主は彼らに農奴解放権の特許状を与えました。
13世紀~:元の土地に居住し続ける人への特許
生活環境が良かったり栄えている都市には人が集まり、多くの人がその環境を求めてその土地に移住しようと考えます。荘園に農民がいなくなると、領主は働いて納税してくれる農民がいなくなってしまい困ってしまいます。そこで、その荘園に留まる者には、農奴解放権の特許状を与えられることが増えていきました。
農奴解放権の内容
農奴解放権を得ると、農民は様々な制約から解放されたり、義務が免除・軽減されたりしました。ここでは、その特権内容について解説したいと思います。
法律
- 荘園内であれば、好きな場所に居住できる。
- 自分の家を持つことができる。(農奴の身分では、居住場所も領主から賃貸しているような状態です。)
- 他の地域に逃げてから1年と1日以上経過すると、その地域に定住できる権利を得ることができる。
権利
- 自由人から農奴に戻ることができる。(凶作が続いたり社会が不安定になると、あえて農奴に戻る人もいました。)
- 財産の相続ができる。
- 荘園内にいる時には、領主から保護してもらうことができる。
裁判権
- 罰金は課されることがあるが、減額となる場合がある。
- 逮捕された場合も自分の担保や資産は保障される。
税金
- タイユ税は徴収されますが、納税額は農奴よりも減額された。
- 労役の義務は制限された。
- 農具などの使用税は現金で支払うこととされた。
商業活動
- 市場での売買が自由にできた。
- 通行税や流通税の支払いは求められた。
行政
- 行政権は領主にあるが、農村のコミュニケーションの代表者やまとめ役に就くことがあった。
- 領主と農民との仲介役の存在となる者もいた。
農奴解放の農村社会の変化
農奴解放が進むことで、農奴解放権の契約が文書化されたりと、地方の領主の権利が各地で統一されるようになっていきました。
農奴解放権の発行は王権の強化にも利用されました。新しい都市などでは王権が行使できるようになり、農民が減少した地域の領主は力が弱まることとなります。
西ヨーロッパを中心に農奴から解放される動きが見られましたが、一部のヨーロッパ(特に東ヨーロッパ)では、農奴解放の動きは見られませんでした。これからの地域で農奴解放が進むのは、18世紀以降になります。
最後までこちらの記事を読んでいただきありがとうございました。
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