パリのマレ地区というと、どんなイメージを思い浮かべますか?
おしゃれなブティック。
カフェやレストラン。
ギャラリーやヴィンテージショップ。
そして、ヴォージュ広場やカルナヴァレ美術館。
現在のマレは、パリでも特に人気の高いエリアのひとつです。
けれど、この街の魅力は「おしゃれな地区」という一言だけでは語れません。
マレには、かつての湿地帯だった時代から、17世紀の都市開発、貴族たちの邸宅、フランス革命、ユダヤ人コミュニティ、そして現代のパリの文化まで、長い時間が積み重なっています。
だから私は、マレを訪れるなら、ただ観光スポットをめぐるだけではなく、
「歴史を知りながら歩く」
ことをおすすめしたいと思っています。
今回は、カルナヴァレ美術館、国立公文書館、ヴォージュ広場、老舗のグルメショップをめぐりながら、マレの歴史と現在を楽しむ街歩きをご紹介します。
マレ地区は、もともと「湿地」だった
「Marais(マレ)」という言葉には、フランス語で「沼地」「湿地」という意味があります。
今のマレからはなかなか想像できませんが、この地域はかつて湿地帯でした。
中世以降、土地の開発が進み、次第にパリの市街地へと組み込まれていきます。
そして17世紀、マレに大きな変化が起こります。
都市整備が進められ、現在のマレを象徴するヴォージュ広場がつくられ、その周辺には貴族や富裕層のための邸宅が建てられていきました。
現在も残る美しい「オテル・パルティキュリエ(hôtel particulier)」は、この時代のマレを伝えるものです。
つまり、現在のマレを歩くということは、
中世から近世、そして現代へと続くパリの街の変化を歩いて見ること
でもあります。
まずはカルナヴァレ美術館で「パリの歴史」を知る
マレを歴史から歩くなら、最初に訪れたいのがカルナヴァレ美術館です。
パリの歴史を専門に扱う博物館で、パリにまつわるさまざまな資料や作品を見ることができます。
絵画や彫刻だけではありません。
家具、装飾品、生活用品、模型、歴史資料など、さまざまなものを通して、パリという都市がどのように変化してきたのかを知ることができます。

マレを歩く前にここを訪れると、
「パリという街は、どのようにつくられてきたのか」
という大きな流れをつかむことができます。
すると、その後に歩く街の見え方も少し変わってきます。
今まで何気なく見ていた古い建物が、
「ここにもパリの歴史が残っているのだ」
と思えるようになるからです。

カルナヴァレ美術館の建物も楽しみたい
カルナヴァレ美術館の魅力は、展示品だけではありません。
美術館として利用されている建物そのものが、マレの歴史を感じさせてくれます。
マレには、かつて貴族や富裕層が暮らした邸宅が多く残っています。
大きな門の向こうに中庭があり、その奥に美しい建物がある。
現在では美術館や文化施設として利用されているものも多くあります。
こうした建物を見ると、
「マレがかつてどんな人々の暮らす街だったのか」
を想像することができます。
美術館の中だけではなく、ぜひ外に出てからも、建物のファサードや門、通りのつくりに目を向けてみてください。

国立公文書館で「残された歴史」に出会う
カルナヴァレ美術館からマレの街を歩いて、次に訪れたいのが、
Archives nationales(国立公文書館)
です。
マレにある国立公文書館の中心的な場所のひとつが、オテル・ド・スービーズ。
18世紀の華やかな装飾が残る歴史的建築です。
ここで面白いのは、歴史を「絵や展示品」だけではなく、
実際に残された文書や記録
から感じられること。
例えばですが、実際にルイ14世が出したナントの勅令の記録文書を発見したときは、感動しました!


歴史を勉強していると、どうしても過去の出来事が「知識」になってしまいます。
けれど、当時の人々が実際に残した文書を見ると、
「この時代にも、ここで人が生活していた」
という感覚が少し身近になります。
歴史を読むのが好きな方やフランス語を勉強している方には、ぜひ立ち寄ってほしい場所です。
ヴォージュ広場へ
そして、マレを歩くなら外せないのが、ヴォージュ広場です。
アンリ4世の時代に整備されたこの広場は、17世紀初頭の都市計画を今に伝える場所。
かつては「王の広場」と呼ばれていました。
赤レンガと石を組み合わせた建物が規則正しく広場を囲み、中央には緑豊かな庭園があります。
現在のパリには、19世紀のオスマンによる都市改造によって生まれた大通りも多くありますが、ヴォージュ広場では、それより前のパリの都市景観を感じることができます。
広場を一周しながら、建物を眺めてみる。
アーケードを歩いてみる。
中央の庭園で少し休む。
それだけでも、マレの歴史を感じることができます。
ヴォージュ広場と、ここに暮らした人々
歴史的な場所を訪れるとき、私は「建物」だけではなく、
そこで誰が暮らしていたのか
にも注目したくなります。
ヴォージュ広場の6番地には、フランスを代表する作家ヴィクトル・ユゴーが暮らしていた住居があり、現在は「ヴィクトル・ユゴーの家」として公開されています。
また、17世紀の文学史を考えるときには、マダム・ド・セヴィニエも忘れられません。
彼女の書簡は、当時のフランス社会や人々の暮らしを知るうえでも興味深い資料です。
歴史というと、王や戦争、革命といった大きな出来事を思い浮かべがちですが、
一人の女性が家族に宛てた手紙や、一人の作家が暮らした部屋からも、その時代の空気を感じることができます。
そう考えると、ヴォージュ広場を歩く時間も、少し違って見えてきます。
マレで楽しむ、フランスの紅茶文化
歴史をめぐったら、宮廷文化を感じる紅茶店へ。
ヴォージュ広場には、フランスの老舗紅茶ブランド、
DAMMANN Frères(ダマン・フレール)
のブティックがあります。
フランスというとワインやカフェを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、紅茶もまた、フランスらしい暮らしや美意識を感じられるもののひとつです。
たくさんの種類のお茶が並ぶ店内で、香りやパッケージを眺めながら、自分のためのお茶を選ぶ。
旅先で選んだお茶は、日本に帰ってからもフランスの記憶を楽しませてくれます。
旅行中の「買い物」を、単なるお土産ではなく、
旅の続きを自宅でも楽しむためのもの
と考えると、少し選び方も変わってくるかもしれません。
老舗ショコラトリーにも足を運びたい
マレ散策の最後に立ち寄りたいのが、
À la Mère de Famille(ア・ラ・メール・ド・ファミーユ)
です。
1761年創業のパリの老舗ショコラトリーで、現在もパリに複数の店舗があります。
マレにはランブトー通りの店舗があります。
歴史あるマレを歩いたあとに、長い歴史を持つお菓子屋さんを訪れる。
この組み合わせも、フランスの街歩きの楽しさだと思います。
店内にはショコラをはじめ、さまざまなお菓子が並びます。
フランスでは、食文化もまた歴史の一部です。
ひとつのショコラやお菓子から、その土地の暮らしや文化を感じることができる。
そんな視点を持つと、旅先での食べ歩きも少し違ったものになります。

マレを歩くと、「古いパリ」と「今のパリ」が見えてくる
マレの面白さは、歴史的な建物が残っていることだけではありません。
古い建物の隣に、現代的なショップがあります。
歴史的な邸宅の中に、美術館があります。
何百年も前につくられた広場で、現在のパリの人々がくつろいでいます。
そして、昔から続く老舗の店と、新しいブランドが同じ街の中に存在しています。
つまりマレは、
「昔のパリが保存されている場所」
ではなく、
「過去の上に現在の暮らしが重なっている場所」
なのだと思います。
だからこそ、歴史を知ってから歩くと面白い。
大人のパリ旅は、「知る」ことでさらに楽しくなる
若い頃のパリ旅行では、
「有名な場所だから行ってみよう」
という楽しみ方もあります。
もちろん、それも旅の楽しさのひとつです。
けれど、大人になってからの旅では、
「なぜ、この場所にこんな建物があるのだろう?」
「この人は、どんな時代を生きたのだろう?」
「この街は、どうして今の姿になったのだろう?」
と考えながら歩いてみるのも楽しいものです。
ひとつの美術館からパリの歴史を知り、
ひとつの文書から過去の人々の暮らしを想像し、
ひとつの広場から都市の歴史を感じる。
そして最後には、お茶やショコラを楽しむ。
それもまた、フランスを楽しむひとつの方法です。
マレ地区の歴史をめぐる、おすすめルート
今回ご紹介したマレ地区を歩くなら、こんな流れがおすすめです。
カルナヴァレ美術館
↓
国立公文書館・オテル・ド・スービーズ
↓
マレの街並みを散策
↓
ヴォージュ広場
↓
DAMMANN Frères
↓
À la Mère de Famille
美術館をひとつじっくり見る。
歴史的な通りをゆっくり歩く。
広場で休憩する。
ルイ14世ゆかりの紅茶を選ぶ。
老舗チョコレート店でショコラを買う。
マレ地区が育んだ歴史や文化が感じられる場所がたくさんあります。
マレ地区を訪れるなら、ぜひ「歴史」を旅のテーマに
マレには、たくさんの観光スポットがあります。
でも、ひとつひとつを「観光名所」として見るだけではなく、
「この街は、どんな歴史を経て今の姿になったのだろう?」
という視点を持って歩いてみると、景色の見え方が変わります。
ヴォージュ広場の美しい建物も、
カルナヴァレ美術館の展示も、
国立公文書館の古い文書も、
マレの細い通りも、
老舗のお茶やショコラも。
すべてが、長い時間の中でつながって見えてきます。
パリ旅行では、ぜひ少しだけ歩く速度をゆるめてみてください。
ガイドブックに書かれている情報だけではなく、
「この場所で、昔は何が起きていたのだろう?」
と想像しながら歩いてみる。
すると、いつものパリが少し違って見えてくるかもしれません。
知るほど、フランスの景色が変わる。
そんな旅を、マレから始めてみてはいかがでしょうか。


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